人は祈る生き物である

トイレ床前面に新聞紙を敷き、汚水が飛び散らぬようラバーカップを通して便器
を覆うようにビニール袋をかけ、自分もしっかりとプラスチック手袋をしていざ、作業開始。
私は学生時代に二年ほど店舗や民家、ホテルの掃除をしてきている。
民家は引越し前のクリーニングや新築家屋の掃除だからまだいいのだが、店舗やホテル(特にホテルは裏方)のトイレ掃除は凄惨な状況に出くわすことが
多々あった。
なので「汚れる」ということに関しては慣れがある。唯一の救いと言えよう…。
ひとまず、ラバーカップでバコバコやってみる。
これは、静かに便器に押し付け、勢いよく引く。
「引き」の吸引力でパイプ内の引っ掛かりをバラすというものだ。
何度かバコバコやってみたが、一枚ティッシュが出てきただけであとは何も出てこない。
ただ、押したり引いたりの動きでわずかながら水は流れていくらしく、作業を繰り返すと水がなくなる。そこに洗面器で水を流し込んで同じ作業を繰り返す。
30分やっても進展が見られず、ワイヤーを投入することにした。
なかなか引っかかって進まないワイヤー。
詰まりに引っかかっているのか、パイプの曲がりくねりで引っかかっているのか見当がつかない。
何度か出し入れしても先っちょのコイルにはなんにもついてこない。
ラバーカップとワイヤと交互に使いながら2時間ほどがんばった。
水を継ぎ足していくうちににごった水はすっかり透明にきれいになってしまった。
詰まっているものは濡れティッシュなので完全に水を遮断することはなく、少しずつ通しているのだろう。
手応えを感じることができず、自分の作業が事態を良くしているのか悪くしているのかもわからないまま、ただ時間だけが過ぎていった。
腰が痛くなって中腰のモモもパンパンである。
さらに一時間ほど経過したかと思われたころ、ワイヤを思い切り奥までつっこんでいたら、便器から離れたあたりで「さらさらさらー」と囁くように水が流れていく音がした。
「え、もしかして、つまりが解れてきているの??」
ガリガリガリ。
「さらさら・さらー」
「!!!」
この時の心境は、あせりと不安が入り混じっていた。
神様じゃないが、ナニかに祈りつつ、作業していた。
なんどかガリガリやるとサラサラの音がしなくなった。
すかさず、ワイヤをラバーカップに切り替え、ガボガボガボと連続使用する。
が、やっぱり水を継ぎ足すと流れずに溜まってしまう…。
すごく奥のほうで詰まっているのだとしたら、おそらくガボガボもワイヤも届くまい…。
祈りがあきらめに変わっていった。
もうすぐオットも帰ってくるだろう。もう3時間もやって事態はちっとも変わっていない。
ほとんどあきらめ気分でガボガボやっていたら、「ごぼぼっ」という音とともに、がくっと水位が下がった。
「ええっ?!」
驚きの声とともに水を流し込むと今までより早く水が流れていく!
ダメおしでさらにラバーカップを使うと、がばっと水がなくなった。
水を投入してもさーっと引けていく。
「おおおお!」
ちょうどその時、仕事のミーティングが終わった実父から電話が。
興奮気味に状況を説明すると、ひたすら勢いよく水を流しつづけろと事。
詰まったものを手前に引き出して回収するのはもう不可能なので水圧で太い配管まで押し流してしまえと言うことらしい。
ワイヤを半分以上入れたと言ったら、このワイヤは6mなので隣りか公共の配管ぎりぎりまでいったんじゃないかと言われる。
詰まりがなくなったように見えても、配管の次の曲がり角で詰まってしまっては元の木阿弥なので、ひたすら水を注ぐ。
家で一番大きい鍋に水を入れて勢いよく注ぎ、すかさず「大」で水を流すのを20回以上はやった。
「流れる!、よかった、もう大丈夫だ」と、思ったちょうどそのとき、夫が帰宅。
何もかもがぎりぎりであったが、タイミングよく問題は解決した。
「ごぼっ」の感触は忘れらない充実感というか手応えであった。
高尚な言い方をすれば「達成感」でもよろしい(笑)
給料をもらっていないトイレトラブルはほんとに肉体精神ともに消耗すると思い知った二日間だった。
みなさん、トイレにトイレットペーパー以外のものを流すのは止めましょう…。

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人は祈る生き物である への5件のフィードバック

  1. きよこ のコメント:

    はじめまして。
    大阪に住む会社員です。
    トイレが詰まってからとゆうもの、毎朝一心不乱に仕度を済ませ出勤。
    しっかり用を足してから帰宅するとゆう日々です。毎日トイレと格闘してまいりましたが、一週間も続くとさすがにアドバイスをもらった人からも”結果をだせ!”とプレッシャーをかけられる始末。
    “こんなだから何をやってももう一つの域を脱しないんだ。”とへこんでおりました。
    わらをもつかむおもいで検索していると、はるかさんの体験記に出会うことができました。
    「ごぼぼっ。」の音を夢に観、再度トライします。ありがとう。

  2. はるか のコメント:

    なんとかなりましたでしょうか・・・
    ワイヤとラバーカップの二刀流でなんとか詰まりを解消できるといいですね。
    体験記が役に(というか、心の支えに)なればうれしいです(^^;
    喜びの一報が聞ける事を祈っております!

  3. きよこ のコメント:

    ありがとうございました。
    待ちに待ったあの音を聞くことができました。ただひたすら作業を続けていたその時、向こうの方からパイプを揺らすかすかな音が。ひょっとして通ったのか。もう夢中になってラバーカップの動作を続けると音がどんどん近くなっていき、これはもう少しだと思ったとたん水位が・・・。
    はるかさんのおっしゃった”達成感”を味わっております。本当にありがとうございました。

  4. かずき のコメント:

    私もこの世界長く見てきているつもりですが、きよこさんとはるかの間はあの管で繋がってしまったのですね。
    そういう関係は初めてお見受けいたします。
    「詰まってない」って素晴らしいですね。

  5. はるか のコメント:

    おめでとうございます!
    よかったです。あきらめないのもポイントですよね、これって(^_^;
    そうなのです、「詰まってない」ってスバラシイんです!
    私は事件後、しばらく水を流すたびにそのスイスイと流れる様を満足と感謝の気持ちで眺めておりました(笑)

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